東京地方裁判所 昭和58年(ワ)7693号 判決 1984年6月28日
原告
梅澤道男
被告
東京鉄道荷物株式会社
右代表者代表取締役
秋田豊
右訴訟代理人弁護士
青木俊文
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し金一九一万五二〇〇円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五一年一一月ころ、小荷物の仕分けをするアルバイトとして、左記の条件で被告会社に雇用され、期間経過後は右契約が更新された。
(一) 賃金
(1) 日勤(午前九時から午後六時までの勤務)四八〇〇円
(2) 徹夜勤務(午前九時から翌日午前九時までの勤務)九六〇〇円
(二) 期間 一カ月
2 原告は、昭和五二年一一月から、準職員としての扱いを受け、前記1の勤務条件のほかに深夜手当(一日につき一〇〇〇円)と交通費(実費)が支給されるようになり、勤務日は被告会社が月末に翌月の勤務日を決めていた。
3 原告の日勤の場合の一勤務当りの賃金は、昭和五五年七月から五一〇〇円、更に昭和五六年七月から五三〇〇円になった。その結果、昭和五六年七月以降の原告の各勤務形態に対応する勤務条件は別紙一のようになった。
4 右3の記載から明らかなとおり、徹夜勤務の場合、午後六時から午後九時までの間も働いているにもかかわらず、その間の三時間分の労働に対する賃金が加算されないのは不当である。被告会社は、右三時間分の労働に対する賃金を支払う義務がある。ところで、午後九時から翌日の午前九時までの間の実労働八時間に対する賃金は深夜手当をも含めると六三〇〇円であるから、徹夜勤務の場合の午後六時から午後九時までの時間給は七〇〇円を下らない。原告は昭和五二年一月から昭和五八年四月までの六年四カ月の間に、一カ月に少なくとも一二回は徹夜勤務をした。そうすると、六年四カ月の間に被告会社の支払うべき賃金は一九一万五二〇〇円となるが、その計算式は次のとおりである。
700(円)×3(時間)×12(回)×76(月)=191万5200(円)
5 よって、原告は被告に対し未払い賃金一九一万五二〇〇円の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1のうち、原告が小荷物仕分けのアルバイトとして期間一カ月の約定で被告会社に雇用され、期間経過後は雇用契約が更新されたことは認めるが、その余は否認する。
原告が被告会社に雇用されたのは、昭和五二年六月七日である。被告会社のアルバイトの勤務形態には別紙二記載の三種類があり、一勤務当りの賃金はそれぞれの勤務形態ごとに別紙二のように定められ、一カ月の賃金は、一勤務当りの賃金にその月の勤務回数を乗じて算出されていた。
被告会社はアルバイトを新聞広告によって募集していたが、新聞広告には各勤務形態を明示して募集しており、応募する者も自分が就労する場合の勤務形態を予定して応募してくる。被告会社が応募者を採用するときは、本人と面接のうえ、本人の希望に従って各勤務形態ごとに採用しており、従って、採用決定がなされるときは、勤務形態や賃金も決定されている。そして、決定された勤務形態は、特段の事情のない限り、就労後も変更されない。当該就労日にたまたま支障がある場合、たとえば、夜勤勤務者や徹夜勤務者がたまたま当日夜勤ができないような事情が発生した場合には、その日だけ他の勤務形態(日勤勤務)に変更することがあるが、翌日には元の勤務形態に戻すのであって、勤務形態そのものには変更がない。
原告は、応募の際、前記勤務形態のうち徹夜勤務を希望し、被告会社も原告を徹夜勤務者として採用した。原告が徹夜勤務者として働いたことは、同人が採用された昭和五二年六月七日以降徹夜勤務に従事し、本人の都合で昭和五二年八月に一日、同年九月に二日、同年一一月に一日、日勤勤務に従事したものの、それ以外は、同人が退職した昭和五八年五月までの間すべて徹夜勤務に従事し、被告会社が徹夜勤務者としての賃金を支払っていたことからも明らかである。
2 請求原因2のうち、被告会社が原告に昭和五二年一二月(一一月ではない)から深夜手当八五〇円(一〇〇〇円ではない)と交通費を支給したこと、勤務日は被告会社が月末に翌月の勤務日を決めていたことは認め、その余は否認する。
被告会社ではアルバイトに採用した際は、交通費は支給せず、徹夜勤務者にも深夜手当を支給しないが、採用後就労状況をみて、長期継続勤務が可能と思われるアルバイトには、正規の深夜手当と交通費を支給することにしている。原告も長期継続勤務が可能と思われたので、昭和五二年一二月以降深夜手当と交通費を支給することにしたものである。
3 請求原因3は否認する。
原告の勤務形態は徹夜勤務(午前九時から翌日午前九時まで)であり、日勤勤務(午前九時から午後六時まで)ではないのであるから、日勤勤務の場合の賃金を原告に当てはめること自体失当である。徹夜勤務者の昭和五五年七月からの一勤務当りの賃金は一万円、深夜手当は一〇〇〇円であり、昭和五六年七月からの一勤務当りの賃金は一万〇六〇〇円、深夜手当は一〇〇〇円である。
なお、本件とは直接関係ないが、昭和五六年七月からの各勤務形態に対応する勤務条件を示せば、別紙三のとおりである。
4 請求原因4は否認する。
原告の勤務形態は、徹夜勤務である。徹夜勤務は、午前九時から翌日午前九時までの勤務であり、この勤務を一回行って初めて一勤務当りの賃金一万〇六〇〇円が支給されるのである。従って、原告が午前九時から翌日午前九時まで勤務したとしても、それは日勤勤務と夜勤勤務の両者を行い、更に午後六時から午後九時までの間も働いたのとは異るのであるから、その間の三時間分の労働に対する賃金が支払われていないことにはならない。
5 請求原因5は争う。
第三証拠(略)
理由
一 成立に争いのない(書証・人証略)を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告会社は、鉄道荷物の受付業務の代行等を目的とする会社である。原告は、昭和五二年六月七日、小荷物の仕分けをするアルバイトとして期間一カ月の約定で被告会社に雇用され、汐留営業所に勤務していたが、期間経過後は右契約が更新された(原告が小荷物の仕分けをするアルバイトとして期間一カ月の約定で被告会社に雇用され、期間経過後は右契約が更新されたことは当事者間に争いがない)。被告会社には、汐留営業所で働くアルバイトの勤務形態として、日勤(午前九時から午後六時までの勤務)、夜勤(午後九時から翌日午前九時までの勤務)及び徹夜勤務(午前九時から翌日午前九時までの勤務)の三種類があり、原告は採用時に徹夜勤務を希望し、同勤務をするアルバイトとして採用された。原告は、まれに日勤勤務に就いたことがあるほかは、採用された昭和五二年六月七日から退職した昭和五八年五月二日まで徹夜勤務者として勤め、被告会社との契約で定められた徹夜勤務の場合の賃金を支給されていた。昭和五六年七月以降の各勤務形態に対応する勤務条件は、別紙三記載のとおりであった。
右認定事実によれば、原告は当初から徹夜勤務のアルバイトとして採用され、その勤務形態は退職するまで一貫して徹夜勤務であったこと、賃金も被告会社との契約で定められている徹夜勤務の場合の賃金全額が支払われていたことが認められるから、被告会社の支払うべき未払い賃金は存しないというべきである。原告は、日勤の場合も夜勤の場合も、実働時間八時間で五三〇〇円であるから、徹夜勤務の場合も実働時間が一六時間で一万〇六〇〇円であるべきところ、徹夜勤務の場合の実働時間は一九時間であるから、徹夜勤務の場合には三時間分の労働に対する賃金が支払われていないことになるとして、このことを前提に本件請求をしているが、被告会社におけるアルバイトの賃金は各勤務形態ごとに定められており、いわゆる時間給ではないから、実労働一時間当りの賃金は勤務形態によって若干異るのであって、これがすべて同一でなければならない理由はないうえ、原告は徹夜勤務の場合の勤務条件を十分承知のうえで勤務を継続していたのであるから、原告の請求は、被告会社との間の契約で定められた賃金額を上まわる賃金の支払いを求めることに帰し、その前提において失当というべきである。
二 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢崎博一)
(別紙略)